~ 何の修行だよ って話ゼヨ ~
作業着の胸のチャックを閉めながら、旭輪業の店主は眠そうな顔をして無言で店先に出てきた。
「すみません、朝早くから」
「いやいや大丈夫ですよ、このバイクですね。ちょとキーを回してみてください」
「さっき一瞬だけ点いたんですけどね」
「バッテリーはどこにあるんですか?サイドカバーの中ですか?」
「あ、シートの下ですけど、バッテリーは半年前に交換したばかりなんですよ」
荷物を降ろして、シートを外して現れたバッテリーを見るなり、店主は
「あー、接触不良ですね」
「えっ??」
プラス端子は例の赤いカバーがかかっていてもちろん見えない。
マイナス側の端子のボルトも垂直方向になっているので、ちょっと見ただけでは異状なんてわからないが・・
店主は無言でドライバーを手にし、締め付けはじめた。
「やっぱり緩んでましたね、ちょっとキーを回してみて」
まさかそんなと思いながら、キーを右に回すと・・・
「あ、点いた!」
「エンジンかけてみてください」
セルボタンを押すと何もなかったかのように一発でエンジンがかかった。
「バルルルルッ! ブォンブォン!」
そりゃ当然だという顔の店主の手にはすでにテスターがあり、バッテリー端子につなぎ終わっていた。
「えーと、ちょうどぴったり12ですね、もうちょっとあって欲しいんですけどね」
といいながら、アクセルを回してエンジンの回転を上げる。
「ぶぉぉぉぉぉぉ」
「あー、吹かすと上がるからいいですね。充電はされてますね」
「このバッテリー、ネットで買って、自分で交換したんですよ」
「んー、やっぱりねー、これ国産じゃないでしょ。国産がいいですよ、高いけどねー」
「日本語の表記があるけど多分国産じゃないと思います・・」
「外国の安いやつにはたまにやられるんですよ、突然アガッちゃうことあるんですよ」
「へー、そうなんですか」
「ところでどっから来たんですか?」
「今朝、千葉を出発して、たまたまそこのキグナスで給油したら、スイッチ入んなくなっちゃったんですよ」
「そしたら目の前がバイク屋だったって?」
「そうなんです」
「そういう人もいるもんだね~」
感心しているのか呆れているのか、あるいは両方なのかわからなかったけど、
「まぁ、よかったですねぇ」と嘆息しながら、店主はプラス側も増し締めしてくれていた。
「実はこれから東北を回ってこようと思ってるんですが、このバッテリーで大丈夫ですかね?」
「それは神のみぞ知るだねっ(笑)」
「はははは、そうですかぁ」
バイクを挟んで向かい合う店主の顔が光り輝く仏様に見えたことは言うまでもない。
「こんなハプニングもなかなかないんで、記念写真を撮ってもらっていいですか」
と頼んだら、仏様はニコニコしながら、
「じゃあ折角だからうちの看板の前に立って」
ベニア板に描かれた手書きのゴリラとのツーショットをカメラに収めて、日立市水木町を後にしたがじゃった。
*
自分の運のよさなど特に評価するべくもなく、小雨の中、245号線を終点まで辿ると日立北で国道6号線(陸前浜街道)となる。
高速には乗らずにこの「ロッコク」をひた走るのは予定通りだったのだが・・
勿来の関を過ぎて福島県に入り、いわき市あたりを通過する頃には雨が本降りとなってきた。
しかも気温も下がり、道路の上に表示されている電光掲示板には「13℃」!
あのねぇ、昨日は30℃越えてたんだよね。千葉だけどね。20℃も違うとキツイんだよね、さすがに。
などとヘルメットの中で恨み節を唱えたところでどうにもなるわけがない。
長距離トラック用のパーキングの表示があったので、暖を取ろうと立ち寄ったけど、
トイレがあるだけ!自販機も何もない!!
ま、用は足して、バッグからペットボトルのお茶を出して水分補給は一応できた。
まだまだ先は長いゼヨ・・
昼も近づき、お腹もすいてきた。皮算用では仙台あたりで昼飯のはずだったが、それはもう無理。
雨も本降りのままだけど、もう少しもう少しと言い聞かせながら距離をかせぐ。
たしか福島や宮城の天気は午後から回復という予報だったはずじゃったしのぉ。。
ところが、雨はじわじわと勢いを増している気がするのはオレだけ? いや、他に誰もいないけど・・
手の指がカジカンで、ちょっと感覚がなくなってる気がするのもオレだけ? そう、アンタだけです。
てな具合にひとり脳内twitterするのも疲れはてた頃、道の駅を発見!
屋根付きの駐輪場!よかった~
12時半、着いたのは「野馬追いの里 道の駅 南相馬」 ともかく休憩じゃー。
一応ライダー用レインスーツなんだけど、首筋をつたって水が浸入したのかジャケットはじっとり湿っていた。
レインスーツとジャケットを椅子の背にかけて応急乾燥させるべし。「暖」と「乾」と「休」を補給するべし!
「暖」のほうは迷った末に「当店人気一番」の文字にさそわれて「野菜ラーメン」の塩に決定~。
少し混んでいて、待っている間にあったかいお茶を3杯飲みながら周りの客の姿をみると、
みんなジャンバーや上着を羽織っている・・ま、こんだけ寒いと当然だわね。。
テーブルに広げていたバンダナがちょっとだけ乾き始めたころにラーメンできあがり!
ラー油を入れてさらにホットにしたらもう最高。ゆっくりとスープまで完食したチヤ。
(前日に津田沼の某有名店で食べたラーメンより5倍(当社比)はおいしかったね ^^)
しかし、食べ終わってもまだ身体は十分に暖まってない。もっと暖をとるべし。休もとるべし。
ということで休憩所に移動して缶コーヒーをすすりながら道路情報や天気予報をチェックしていると・・
通過してきた町や行く先の仙台は降水量1ミリ。福島も1ミリ。ここ相馬付近は降水量4~10ミリ。
ってオイオイ、ここだけが土砂降りっちゅうことかーい! というよりも、ひょっとして雨雲と一緒に移動中?
とほほと思いつつ、休憩所の一角に何やら写真がたくさん展示してあったのでフラフラと立ち上がって鑑賞。
鎧も飾ってあったので何だろうと思いながら見てみると・・
「野馬追い」ってこういうことだったのね
あー!自分も急がねばっ もう2時過ぎてるし。。
実は翌日、ある場所で友達と待ち合わせをしているのだ。
その場所はまだはるか遠い所だ。だから今日の到着地点によって、明日の行程のキツさが変わってくるガヨ。
でもって、その友達に現状報告メールをして出発。
「現在、仙台の手前80キロ。できれば花巻あたりまで辿り着きたいんだけど、悪天候のためおそらく無理。最悪は仙台泊りかもしれない。」
着いたときよりは少し小降りになっていた。しかし仙台が近づくにしたがって、道路が混んできた。
予定では多賀城から塩釜を通って松島を見ながら石巻へ向かうつもりだった。
岩沼市でロッコクは終了し、国道4号線に入った地点で2回目の給油がてら、レジの前のテーブルでひとり作戦会議。
やっぱり花巻まで行くのはあきらめよう。予定通り高速は使わずに下道を走ろう。
でも道路状況がわからないから行けるとこまでということにしよう。
よし、会議終了。
店の電話で(おそらく)地元の友達と喋っていた店員さんの会話は生粋の東北弁のためまったく意味不明だった。
仙台バイパスは片側3車線の広い道だが交通量も多い。仙台東部有料道路へ導く緑の看板が気になる。
多賀城方面に右折して4号線を離れた途端、またもや土砂降りに近くなってきた。心が折れそうだ。
「今日は仙台に泊まっておいしいイワシ料理か牛タンでも食べようよ」
という甘い文章を脳みそが繰り返し繰り返しタイプしはじめた。
「うううう、仙台じゃ明日がつらい、もうちょっと稼ごう!」
「その代わり、高速じゃー!」
ということで、仙台北から三陸自動車道に乗る。
塩釜を過ぎて、松島ICを通過するころは80キロ出すのがやっとのような大雨。(なぜか速度制限してないし)
「どうせこの天気じゃ松島なんて見えなかったもんねー」
とイソップ物語のキツネは風雨と寒さにふるえながら、何かの修行に耐えるのであった。(何のだよ)
石巻の手前で料金所があった。
ウエストバッグの中からやっとこ通行券を取り出して係員のおじさんに手渡し、料金を払った。
でも進行方向を眺めると、高速道路はまだまっすぐ続いているので、不思議に思い、聞いてみた。
「この先はもう料金所ないんですか?」
「はい、ここから先はずっと無料ですから、もうありません」
「気仙沼方面に行きたいんですが、どこで降りればいいですか?」
「終点のひとつ手前の桃生津山で降りるか、終点の登米まで行ってもいいですよ」
「どっちで降りても道なりに行けば大丈夫ですか?」
「そうですね、はい」
と言いながら、チラシのような一枚の周辺地図をくれようとしたが、丁重に断って発進した。
(そんなもん見てるヒマはないチヤ)
こうなりゃ終点までである。
片側1車線だが車はほとんど走っていない。でもあまりの大雨でスピードはだせない。
石巻を過ぎた。まだ夕方のはずだが、夜のように暗い。高速に乗ってよかったと思った。
長い無料区間を辿って、終点の登米ICを降りたころ、まるで夜が明けるように空が薄っすら明るくなった。
そういえば雨も小降りになっている。
国道398号線、本吉街道を太平洋に向けて東に進む。
交通量の少ない田舎の山道が峠に差し掛かる頃、森の上空は茜色になりはじめていた。
「よし、今日のゴールは気仙沼に決定だ」
峠を越えて下りきると海岸沿いを走る国道45号線にぶつかる。これを海沿いに北上すればいい。
この辺はもういわゆるリアス式海岸のはずだけど、想像していたのとはちょっと違った。
国道は海岸線にずっと沿っているわけではないからかもしれない。
なんか期待はずれだなぁと思っていると、こんな風景に出会えました。
大谷海岸付近かな?
(北を向いて撮影したつもりですが、なぜかその方角に夕焼けが・・)
人っ子一人いなかったので大事な用も足し(笑)、いざ行かん。
もうまもなく気仙沼だし、まだわずかでも明るさがあるうちに宿を見つけたい。
できれば民宿に泊まりたいので、看板を見逃さないようにしないといけないのでシールドをあげて走る。
でもまったく見当たらない。とうとう陽もとっぷり暮れてしまった。
その内に気仙沼市街への案内標識が現れたので、45号線を離れて街中へ。
すると様子は一変。ホームセンターやスーパーやビルも立ち並んできた。
街灯で明るいけど、こんなところにゃ民宿なんかないわなぁ。
逆戻りして45号線沿いを探すかどうしようかと迷っているうちに市街地も終わりかけてきた。
こうなったらこのまま突っ切って45号線に乗りなおしてから探すか、と思った矢先、左気仙沼駅の表示が。
「おお、名の聞こえた土地の名だから駅まで行けばなんとかなるじゃろう」と思って左折。
なんか寂れた商店街のような通りを抜けたところの右手に駅はありました。
これが気仙沼駅・・・?
つづく